教員の研究紹介
中村 真人

生体情報システム科学専攻 Major of Biological Information Systems

生体組織医工学分野
Advanced study of bio-tissue-medical engineering
Makoto Nakamura生体組織医工学 Bio-tissue-medical Engineering
中村 真人 Makoto Nakamura

研究の背景と目的 Background and Purpose of Study

病気や外傷、加齢、先天異常などで失われた組織や臓器の機能を取り戻すために、細胞や生体の能力を用いて修復・代替を図る「組織工学・再生医療(Tissue engineering, Regenerative medicine)」の研究が進められている。その中で我々は、組織形成・臓器形成を機械で行う科学技術の創出、すなわちバイオファブリケーション(Biofabrication)の研究にチャレンジしている[1]。 そのために、細胞から生きた組織・臓器を構成・構築する高度な装置技術、高度な組織培養技術、細胞の挙動を制御するための増殖因子(Growth factors)の放出制御(Controlled release)技術や生体材料(Biomaterials)技術などの研究開発を行う。 さらには、作製した生体組織を無侵襲で観測・評価する技術、細胞組織を安全に長期保存する技術など、関連するあらゆる科学技術の開発に取り組む。それにより、従来技術をはるかに超える高度な「組織工学・再生医療」を実現し、組織や臓器を自在に作り、医薬・生命科学の進歩に貢献することを目指す。そして、「生体医工学(Biomedical engineering)」に「組織工学・再生医療」を融合させた新しい学問体系を築くことを目的とする。


The researches on tissue engineering and regenerative medicine have been made to regain the failured organ functions which have been lost because of several diseases and injuries. In this research field, we are challenging to create innovative technologies to manufacture biological tissues and organs using several computer aided machine technologies. It is called “Biofabrication”. We are focusing on innovative device technologies for constructing tissue structures, tissue culture technologies and biomaterial-biomolecule engineering for controlling cell behaviors and tissue growth. In addition, we are also addressing the researches on the associated technologies which support biofabrication, such as non-invasive monitoring technology and preservation technology of fabricated products. Through these challenging researches, we are aiming to realize the highly advanced tissue engineering in which biological tissues and organs can be arbitrary reproduced. Finally, we would like to contribute to the progress of clinical medicine and life science, and are aiming to establish an innovative methodology in which tissue engineering is fused with bio- and biomedical-engineering further more.

本研究の領域横断性

組織工学・再生医療・生体医工学・人工臓器、いずれも医工連携により進められてきた。機械による臓器作製を目指す本研究においても、広い生命科学の知見と高度な理工学技術、薬学技術の融合を積極的に進めることが必要である。また、作製した細胞組織や臓器プロダクトは3次元組織モデルとして、組織形成や病態発生のメカニズムの解明、薬剤スクリーニング用途など、医薬への応用が広がる。究極は移植用組織・臓器としての発展性もある。医薬理工の深い連携を築きつつ、推進すべき研究領域である。

研究内容

1) 機械で臓器を作る究極の再生医工学技術:バイオファブリケーション

組織工学・再生医療では、これまでに様々な組織や臓器の研究が行われてきているが、現在、細胞培養によって確実に作れる組織は、いまだ、薄い組織か、血管のない小さな組織、ほとんど構造のない一種類の細胞での単純な組織に限られる。より高度な構造を持つ多種細胞で構成される組織、より大きな組織、ひいては臓器を作るには、従来の細胞培養技術をはるかに超える高度な技術を開発する必要がある。 我々は、機械と工学の手で生きた細胞組織、究極は臓器の作製を目指して研究を進めている。この研究は『バイオファブリケーション:Biofabrication』 と呼ばれているが、高度な機械の手、高度な科学の技術を導入することで、従来の細胞培養の壁と限界を破り、高度な3次元細胞組織の作製にチャレンジする取り組みである。

#1、インクジェット3Dバイオプリンターの開発と生体組織の3次元積層造形

印刷技術は、そもそもインクの塗布場所を規定して用紙に塗布して画像を描出する技術である。ここで、インクとして生きた細胞やタンパク質などが自在に印刷できれば、高精細印刷、カラー印刷、高速印刷などの高度な配置制御を行った細胞組織を構築できると考え、インクジェット技術の応用、さらに3次元化を実現するゲル化技術を開発し、細胞を3次元配置する装置「3Dバイオプリンター」を開発した。 この装置は、(1)インクジェットの利用、(2)ゲルでの三次元積層造形、(3)溶液中への3次元造形、(4)生きた細胞を生きたまま配置可能、(5)多色カラー印刷が可能(多種細胞での3次元造形が可能)、という生きた細胞を扱うための特殊な特徴がある。生きた細胞とゲルで、シートやチューブなどの3次元構造の積層造形に成功してきた[2,3](Fig.1)。本装置は、現在、さらに複雑な構造を作れるように改良し、バージョンアップを図っている。また、新バージョン装置で新たな構造を作り出す研究と並行して、作製した細胞入り組織の培養・育成工程へ向けての研究を進めている。

Fig.1, Inkjet 3D-Bioprinter and 3D biofabrication by laminating printing

#2、毛細血管のバイオファブリケーション

組織工学・再生医療では、毛細血管はきわめて重要な機構である。ぶ厚い組織を作製するためには、組織のすみずみまで酸素や栄養を送る機構が必要だからで、毛細血管の走行を制御し、誘導する技術を開発する必要がある。細胞接着を制御する高分子材料技術と印刷工学技術を融合して、細胞活性材料のパターニング、細胞のパターニング培養を行い、さらに細胞転写技術、血管内皮細胞の自己管腔化などの技術や現象を応用して、毛細血管の制御技術の開発に取り組んでいる。

#3、バイオファブリケーション実現のための周辺技術

細胞から機械の手で組織、臓器を作製するためには、造形、培養とともに、そこには多くのプロセスが必要で、作製した生体組織を無侵襲で観測・評価する技術、細胞組織を長期安全に保存する技術など、未踏の領域への取り組みも必要である。しかも、それぞれのプロセスにおいても、乗り越えるべき技術課題が存在することが十分予想され、新技術への果敢なチャレンジが必要である。

2) バイオファブリケーションに向けた生体材料工学研究

#1、バイオファブリケーションに適した材料の開発

インクジェット技術による3次元積層造形においては、造形能力の向上と細胞接着・細胞増殖能の向上の面から研究を進めている[4]。現在まで、主としてアルギン酸ゲルを中心に用いてきたが、他の適するゲル材料の試行や探索、造形材としての要素の改善や細胞接着・細胞増殖能の向上など、生体材料の面からの向上を図っている。

#2、DDS微粒子作製へのインクジェット技術の応用

バイオファブリケーションでは、細胞とともに、生体材料、増殖因子の配置制御が必要になる。特に増殖因子は、細胞の挙動を制御し組織形成・誘導する鍵材料であり、徐放や放出制御技術が重要である。そこで、均一な微量液滴の吐出が可能というインクジェット技術の利点を活かして、ドラッグデリバリーシステム(DDS)用微粒子の作製を試みた。 極めて均一性が高い微粒子が得られることが確認できた。薬剤放出制御が可能な材料を用いれば、DDS 剤としての機能が期待でき、現在、様々な薬剤の封入を試みている。本技術は DDS 実験に有用な簡便な DDS 作製装置への発展性がある。

参考文献

  1. Guillemot F, Mironov V, Nakamura M, Biofabrication 2 : 010201-7, 2010.
  2. Nishiyama Y, Nakamura M, Henmi C, et.al., J Biomech Eng 131(3): 035001-6, 2009. (Cover page)
  3. 中村真人、実験医学増刊号再生医療の最前線2010 実験医学 28(2)増刊, 185-192, 2010.(表紙に掲載)
  4. Nakamura M, Iwanaga S, Henmi C, K Arai K, NishiyamaY, Biofabrication 2: 014110-6, 2010.
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