教員の研究紹介
鈴木 正康

生体情報システム科学専攻 Major of Biological Information Systems

単一細胞解析のためのバイオセンシング技術
Biosensing technologies for single cell analysis
Masayasu Suzuki生体計測工学 Biosensing Engineering
鈴木 正康 Masayasu Suzuki
  • TEL : 076-445-6707
  • URL :
  • Keywords : Biosensor, Biochip, SPR, Microarray, Cell chip, Single cell screening

研究の背景と目的 Background and Purpose of Study

ハイスループットな生命機能解析を可能にする、DNAチップ(DNA chip)、プロティンチップ(protein chip)に続く第3のバイオチップとして細胞チップ(cell chip)が注目されている。文部科学省知的クラスター創成事業「とやま医薬バイオクラスター」(第I期)では、免疫細胞の機能解析や抗体医薬の迅速開発を目的として単一細胞レベルの細胞マイクロアレイチップ(microarrayed cell chip)に関する研究を遂行した。1チップ上に細胞がちょうど1個入る直径10~30μm程度のウェル(well)が、アレイ状に数十万個並んだ細胞マイクロアレイチップは免疫細胞のように個々の細胞が遺伝子レベルで異なるような細胞を取り扱う上で非常に有用である。しかし、細胞1個ずつを迅速に操作したり、その機能を計測したりする技術の開発は大きく遅れている。 我々はこれまで、バイオテクノロジーとエレクトロニクスを融合したバイオエレクトロニクス(bioelectronics)に関する一連の研究を行ってきた。特に生物の持つ優れた分子識別機能を利用したバイオセンサ(biosensor)の微小化と集積化に取り組んできた。これらの知見をもとに国内外でまだ例のない10μm径のマイクロウェル中でのバイオセンシング技術の開発に取り組んでいる。また、マイクロウェルに効率よく細胞を分注する技術や、細胞を1個ずつ取り出す技術に関する研究も進めている。


Recently, cell chips, the third generation biochips, attract much attention. We are developing the single cell manipulation system and novel sensor systems for micro-well array chips. This system is useful for the pathogen-specific lymphocytes screening. We have been studying on basic methodologies for seeding cells into micro-well array chips and picking up a single cell from the chip. Based on these results, the automatic screening system for pathogen-specific lymphocytes is now being developed. We are also developing monitoring methods for viable activity and antibody production of a lymphocyte in a micro-well. Since pH and oxygen concentration are good indicators for cell activity, we have developed micro-arrayed optical chemical sensors for pH and oxygen, which are compatible to a micro-array scanner for DNA chips. Furthermore, the high resolution two-dimensional surface plasmon resonance (2D-SPR) imaging sensor was developed for the monitoring of antibody production by a lymphocyte in a micro-well.

本研究の領域横断性

本研究には、バイオテクノロジー(免疫学、細胞生物学、酵素工学等)はもちろんのこと、センサデバイス(計測工学、電子工学、物理工学)、チップの微細加工技術(電子工学、機械工学、材料工学)や表面加工技術(材料工学、化学)に関する高度な技術や知見が不可欠である。医と工の融合ばかりでなく、工学のほとんどすべての領域に関わる知見を駆使して遂行する必要があるフロンティア領域の研究である。

研究内容

Fig.1 にわれわれの研究グループの研究内容の概要を示す。「バイオテクノロジー」、「計測技術」、「マイクロ・ナノプロセス技術」を融合し、バイオチップ及びバイオセンサに関する研究を行っている。本稿で紹介するのは、このうち単一細胞レベルの細胞チップ及びその計測・支援技術に関するものであり、その概要を Fig.2 に示す。

1.細胞マイクロアレイチップのための計測技術の開発

単一細胞アレイチップにおいては個々の細胞機能を計測する技術の開発が必要不可欠である。しかし、10(リンパ球)~30(多くの細胞)μmという微小領域でのバイオセンシングに関する研究はまだ世界でもほとんど例がなく、我々はこれまでのバイオセンサ研究の知見をもとにこの問題に取り組んでいる。

(1)単一細胞活性計測のための化学・バイオセンサマイクロアレイの開発 代表的な細胞活性の評価指標として有機酸分泌に基づくpHと、呼吸活性に基づく酸素濃度が挙げられる。我々はpHや酸素濃度の変化により蛍光強度が変化する蛍光プローブ色素を、DNAチップ作製用のガラス基板上に均一に製膜し、その上にPDMSを利用してマイクロウェルアレイを形成することで細胞活性計測が可能なウェル径10μmのpH,酸素計測マイクロアレイを開発した。 DNAチップ計測用蛍光スキャナを用いることで蛍光強度の変化からリンパ球の活性の違いを検出することに成功した。同様の原理で、過酸化水素の検出も可能で、さらに酵素膜との組み合わせにより酵素センサアレイの構築にも成功している。

(2)単一細胞マイクロアレイのための高解像度2次元SPRイメージング マイクロウェル中の細胞が分泌する抗体やサイトカイン等をリアルタイムで検出するため、高解像度で高感度な2次元SPR(表面プラズモン共鳴)イメージングセンサの開発に取り組んでいる。

世界でも例のない直径10mというSPR計測の限界に近い微小領域で、マウスIgGやIL-2の高感度検出に成功した。細胞応答そのものを直接SPRで検出することにも成功している。

2.単一細胞レベルの細胞スクリーニングシステム

単一細胞レベルの細胞マイクロアレイチップを実現するには、マイクロウェルへ細胞を1個ずつ入れる技術や目的のウェルから細胞を取り出す技術、及びそれらを自動化する技術の開発が必要不可欠である。我々は地域新生コンソーシアム研究開発事業(経済産業省)「マイクロアレイチップを用いた細胞スクリーニングシステムの開発」(総括研究代表者:鈴木正康)において、この問題に県内外の企業と取り組んだ。 その結果、細胞の分注、目的の細胞の検出、その細胞の回収という一連の操作を全て自動化した一体型装置の試作に成功した。Fig.3 にその装置を示す。そしてその要素技術の1つであるマイクロアレイチップ上の指定したウェルから細胞を回収する自動細胞回収装置がスギノマシンにより商品化された(Fig.4)。現在は市販顕微鏡に装着できる簡易型装置も商品化されている(Fig.5)。

Fig.3 Automatic single cell screening machine Fig.4 Full automatic cell pickup machine Fig.5 Semi automatic cell pickup machine

参考文献

  1. 鈴木正康、細胞マイクロアレイチップを用いた単一細胞スクリーニングシステムの開発、医学のあゆみ、218(2),135-138 (2006)
  2. M.Suzuki et al., Surface plasmon resonance array devices, Handbook of Biosensors and Biochips, Vol.2, Wiley (2007), pp.917-924.
  3. 鈴木正康、シングルセル解析のための2次元SPRイメージング技術の開発、「シングルセル解析の最前線」、シーエムシー(2010)、pp.119-126.
  4. M.Suzuki et al., Detection and collection system of target single cell based on pH and oxygen sensing, J.Robotics and Mechatronics, 22(5), 639-643 (2010).