教員の研究紹介
袴田 優子

認知・情動脳科学専攻 Major of Cognitive and Emotional Neuroscience

ストレス関連精神疾患における精神病理の神経生物学的理解 および これに対する有効な心理学的予防・治療法の開発
Understanding the neurobiological mechanisms underlying emotional dysregulation and associated cognitive problems and Development of effective psychological interventions for stress-related mental disorders
Yuko Hakamata臨床心理学・認知神経科学 Clinical and Cognitive Neuroscience
袴田 優子 Yuko Hakamata
  • TEL : +81-74-434-7566 
  • URL : https://clincognneuroscila.wixsite.com/website
  • Keywords : Stress-related mental disorders, Anxiety, Depression, Stress, Emotion, Cognitive bias, Attention, Memory, fMRI, MRI, Endocrine system, Immune system, Inflammation, DNA

研究の背景と目的 Background and Purpose of Study

人は、遺伝や生育環境、人生でのさまざまな学習経験を通して、何かしら癖・習慣のようなものを身に付けてきていることが多いものです。こうした癖や習慣は、必ずしも行動上に表れるものばかりではなく、物事を処理する脳の中でも生じています。 ストレスに関連した精神障害(例:うつ病や不安障害など)の患者さん、また患者さんに限らず、もともと不安や抑うつ感を抱えやすい人は、物事をネガティブに捉えさせるような情報処理上の偏り(バイアス)を持っていることが知られています。当研究室では、このような情報処理上のバイアス(癖・習慣)が脳の中でどのように生じているのか、またどのようにすれば良い方向に変化させることができるかについて、主に認知・神経科学的アプローチを通して研究を行っています。 誰もが安心して取り組みやすい治療、そして予防方法を模索・開発し、臨床実践に還元してゆくことを目指しています。
People develop a kind of habit or attitude to handle with problems or stressful situations through their experiences. These habits/attitudes are not necessarily visible or recognizable as they occur in the brain that affects our ways of perceiving or interpreting the world. Anxious and depressive patients or even healthy high-risk individuals are known to have specific cognitive styles that preferentially process emotionally negative information. However, it remains unknown how they arise in the brain or what kind of cognitive interventions alleviate them most effectively. We address these questions from the integrative view including psychology, cognitive behavioral science, endocrinology, immunology, genetics, and neuroscience. We eventually aim at integrating neurobiological research and clinical psychological practices, thereby providing more effective and accessible support for suffering people in community.

本研究の領域横断性

当研究室では、ストレスに関連した精神障害(不安障害やうつ病)を有する患者や、これらの精神障害に対するリスクを有する健常者を対象に、その認知処理上の特徴や発生機序について、伝統的な心理学的な手法(質問紙や心理検査、行動実験課題を含む)と神経生物学的な手法(DNAや内分泌・免疫炎症系指標、神経画像を含む)とを組み合わせた検証を行っている。そして、これにより得られた理解をストレス関連精神障害の予防や治療法の開発に役立て、その効果評価研究も併せて行っている。研究と臨床実践との循環的統合を通して人々のこころの健康促進に対する貢献が期待される。

研究内容

認知バイアスの神経生物学的機序

人の認知処理上にはさまざまなゆがみや偏りが生じうる。たとえば、不安や抑うつを抱えやすい人は、ポジティブないしニュートラルな情報は度外視し、ネガティブな情報に対して過度に注意を向けやすい傾向(「注意バイアス」)や、ネガティブな情報をよく覚えて後から思い出しやすい傾向(「記憶バイアス」)を示すことが知られる。しかしながら、その神経生物学的発生機序は未だ明らかではない。私たちの研究グループは、主に「注意バイアス」と「記憶バイアス」に着目して、これらが脳内でどのように生じるかについて検証している。
①  注意バイアス
私たちの研究では、注意バイアスは視床枕における恐怖刺激(vs.中性刺激)に対する反応性および灰白質体積の個人差によって説明されることが明らかになっている(図)。また恐怖刺激(vs.中性刺激)呈示条件において、この視床枕と注意制御に関与する前頭-頭頂ネットワークとの機能結合が増強するほど注意バイアスが強いことも見出されている(文献1)。 基礎研究から視床枕は、情動(特に恐怖)刺激に対して僅か50-100ms以内に反応するニューロン群を有しており、個人の明確な意識を伴わずに視覚入力された情動情報を扁桃体に迅速に伝達するうえで重要な役割を担うといわれる。ネガティブな情報に対する注意バイアスを緩和させる治療アプローチにおいて、この視床枕は一つの重要な標的になりうることが示唆される。
② 記憶バイアス
臨床上、注意に加えて記憶上に生じる偏りもまた重要である。記憶は、1)特定の情報を覚える、2)覚えた情報を保持する、3)覚えた情報を思い出すといった段階に大別される。たとえば、1)覚える段階(符号化ないし記銘)に焦点を当てた私たちの研究では、不安になりやすい人では、そうでない人と比べて、恐怖に関連した情報をよく覚えやすい(=符号化が促進する)というバイアスが生じること、そしてこのような恐怖に関連した符号化の促進は、扁桃体基底外側核と膝下前帯状皮質の脳機能結合の個人差によって特異的に説明されることを見出している(図)(文献2) また3)思い出す段階に着目した別の研究では、不安障害やうつ病の重要なリスク因子の1つである幼少期被虐待経験を持つ人で、過去に体験した出来事を思い出す際に具体的な文脈情報(誰が何処で何をしていた等)が欠落するという想起バイアスがみられ、これが扁桃体や海馬の減弱した機能結合と関連することを明らかにしている(文献3)。また本研究では心理学と神経生物学との統合的理解を試みており、幼少期に被虐待経験を受けることで、コルチゾールの基礎分泌が低下するとともに前頭前皮質-外線条皮質との間の神経連絡の減弱を生じ、上記のような想起バイアスを生じる可能性を示唆したものでもある(図)。

認知バイアス緩和治療法の効果評価

私たちは注意バイアスを緩和する心理介入アプローチ(以下ABM)が実際に不安などのストレスに関連した精神症状を改善することもメタ解析によって明らかにしている(文献4)。ABMが、どのような神経作用機序を通して、不安を改善するのかについてランダム化比較対照試験を用いて検証している。結果、ABMは日本人においても不安を有意に改善し、加えてこの不安の軽減はABM介入前後における視床枕に関連した機能結合が変化と結びついていたことを見出している(文献5)。ゆえにABMは、刺激に対する注意の迅速な配置を制御する視床枕に働きかけることで、不安を軽減させる可能性を示唆している。

社会への普及

こころの病に対する知識は以前よりも社会に広がりつつあるものの、こころの専門家に助けを求めることには未だ偏見や障壁があるのも事実である。人のこころの援助活動は、専門家のオフィスの中で終始するものではなく、要支援者一人ひとりの生活を支えるなかにある。上記1)と2)のような研究と臨床実践の循環的統合を通してより効果的な予防・治療法を模索することはもちろん、これを人々の生活の中に幅広く普及させてゆくこともまた必要である。既にある偏見や障壁を取り除き、個人がいかに無理なく専門的ケア・サポートを求められるか/続けられるか等、現実上の問題に解答してゆくことは一つの重要な課題である。  

参考文献

1)Hakamata Y, Sato E, Komi S, Moriguchi Y, Izawa S, Murayama N, Hanakawa T, Inoue Y, Tagaya H. The functional activity and effective connectivity of pulvinar are modulated by individual differences in threat-related attentional bias. Scientific Reports. 2016 Oct 5;6:34777. 2)Hakamata Y, Mizukami S, Izawa S, Moriguchi Y, Hori H, Kim Y, Hanakawa T, Inoue Y, Tagaya H. Basolateral Amygdala Connectivity With Subgenual Anterior Cingulate Cortex Represents Enhanced Fear-Related Memory Encoding in Anxious Humans. Biological Psychiatry: Cognitive Neuroscience and Neuroimaging. 2020 Mar;5(3):301-310. 3)Hakamata Y, Mizukami S, Izawa S, Moriguchi Y, Hori H, Matsumoto N, Hanakawa T, Inoue Y, Tagaya H. Childhood trauma affects autobiographical memory deficits through basal cortisol and prefrontal-extrastriate functional connectivity. Psychoneuroendocrinology (in press). 4)Hakamata Y, Lissek S, Bar-Haim Y, Britton JC, Fox NA, Leibenluft E, Ernst M, Pine DS. Attention bias modification treatment: a meta-analysis toward the establishment of novel treatment for anxiety. Biological Psychiatry. 2010 Dec 1;68(11):982-90. 5)Hakamata Y, Mizukami S, Komi S, Sato E, Moriguchi Y, Motomura Y, Maruo K, Izawa S, Kim Y, Hanakawa T, Inoue Y, Tagaya H. Attentional bias modification alters intrinsic functional network of attentional control: A randomized controlled trial. Journal of Affective Disorders. 2018 Oct 1;238:472-481.
タイトルとURLをコピーしました