教員の研究紹介
石山 達也

先端ナノ・バイオ科学専攻 Major of Advanced Nanociences and Biosciences

(生体)高分子界面の分子構造,ダイナミクスの理論研究
Theoretical study of molecular structure and dynamics at (bio)polymer interfaces
Tatsuya Ishiyamaナノバイオ分子設計学 Nano-Biomolecular Design Chemistry
石山 達也 Tatsuya Ishiyama
  • TEL : 076-445-6850
  • URL : http://www3.u-toyama.ac.jp/comp/
  • Keywords : liquid interface, molecular dynamics simulation, vibrational spectroscopy, water, polymer

研究の背景と目的 Background and Purpose of Study

私たちは,量子化学計算や分子動力学シミュレーションといった計算化学的手法を用いて,生体分子や高分子材料の表面(界面)における分子構造やダイナミクスの研究を行っている。この研究の背景には,生命現象の科学的理解,さらには新たな生体適合性材料の開発が期待される一方で,しばしば生体分子の安定性や材料の物性を決めている界面領域を分子レベルで観測する実験手段がかなり限られているという問題が挙げられる。本研究では,第一原理的手法に基づき,理論計算によって,実験研究だけでは明らかにならない界面での詳細な分子挙動を明らかにする。


We study molecular structure and dynamics at surfaces (interfaces) of biomolecules and polymer materials by using the methods of computational chemistry such as quantum chemistry and molecular dynamics simulation. There have been broad interests on life phenomena and development of biocompatible polymers in the scientific community. While the surface (interface) region is very important for understanding of stability of biomolecules and physicochemical properties of polymer materials, experimental approach to observe interfacial region in molecular level is now very limited. We elucidate molecular details at surface (interface) region that cannot be unveiled only by experimental study, by using theoretical calculation on the basis of ab initio methods.

本研究の領域横断性

我々の研究手法は基本的には分子分光法や量子化学に基礎を置く物理化学(分子科学)分野で発展してきた経緯があるが,これが生命分野や高分子材料開発の研究に応用できる点は領域横断性が高いと言えるであろう。特に,最近ではスーパーコンピュータの発展と相俟って薬開発における分子シミュレーションの応用研究が行われるようになった。本研究は,生命科学分野の研究者との共同研究により,計算化学的手法に基づいた新たな研究分野の開拓を目指す。

研究内容

1)生体膜/水界面の分子シミュレーション

私たち生命にとって水は不可欠であるが,これは生命活動を司るタンパク質などの生体分子が水と特異な相互作用をしているためであり,その根本理解には生体分子に接する“水構造”の詳細を知る必要がある。私たちは,水/生体膜界面における分子の配向構造,水素結合構造を,分子動力学(Molecular Dynamics, MD)シミュレーションにより明らかにする研究を行っている。これまで,細胞膜を構成する双性イオン膜であるDPPCあるいはPOPC膜界面における水界面構造を議論してきた(図1)

Fig. 1 : A typical snapshot of molecular dynamics simulation at phospholipid/water interface. Fig. 2 : Schematic of hydrogen-bonding structure at the lipid interface.

DPPC, POPC膜近傍では,図2に示すようにリン酸基とコリン基に挟まれた水が膜側に水素を向けて配向しており,その水分子が脂質分子間をつなぐように水素結合していることが明らかとなった。今後は,タンパク質など,より複雑な生体分子と水との相互作用に注目した研究を行っていく。

2)生体適合性高分子/水界面の分子シミュレーション

現在,様々な合成高分子が医用材料として利用されている。これらの材料に求められる特性として,タンパク質や細胞などの生体物質の吸着を抑制する「生体適合性」が挙げられる。この生体適合性の根本理解には,高分子構造とそれに接触する水分子構造を解明する必要がある。しかし実験的手法のみで界面の分子構造の詳細を解明することは困難である.そこで,本研究は,MDシミュレーションにより上記問題の解明を試みた(図3)

Fig. 3 : Molecular dynamics simulation of water sorbed into poly(meth)acrylates. Fig. 4 : Illustration of diffusion-controlled recrystallization process of water in the acrylate polymer.

含水高分子中の水が示す特異な性質として低温結晶化が挙げられる。氷を暖めると,0℃で融解して融解熱を吸収(吸熱)し水になることはよく知られているが,PMEA中の水は0℃以下に急冷後に暖めていくと,0℃よりも低温側のある温度で発熱挙動を示すことが実験で確かめられている。これは,昇温過程で水が結晶化する(氷になる)ことを意味しており,低温結晶化と呼ばれている。低温結晶化は,近年,生体適合性材料が示す性質のひとつであると提案されているが,そもそもなぜこのような現象が生じるのか,その分子論的メカニズムは詳しく分かっていなかった。本研究では,実験研究グループとの共同研究により,この低温結晶化の分子論的メカニズムをシミュレーションにより解明する研究を行った。結果として,図4に示すように高分子と水素結合している水分子が昇温過程で脱離し,その後水分子同士が凝集することにより結晶化する「拡散メカニズム」を提唱した。今後は,より複雑な高分子界面の問題にMDシミュレーションを応用していく。

参考文献

T. Ishiyama and A. Morita, Computational Analysis of Vibrational Sum Frequency Generation Spectroscopy, Annu. Rev. Phys. Chem., 68, 1-22 (2017)

N. Yasoshima, M. Fukuoka, H. Kitano, S. Kagaya, T. Ishiyama, and M. Gemmei-Ide, Diffusion-Controlled Recrystallization of Water Sorbed into Poly(meth)acrylates Revealed by Variable Temperature Mid-infrared Spectroscopy and Molecular Dynamics Simulation, J. Phys. Chem. B, 121, 5133-5141 (2017)

T. Ishiyama, D. Terada, and A. Morita, Hydrogen-Bonding Structure at Zwitterionic Lipid/Water Interface, J. Phys. Chem. Lett., 7, 216-220 (2016)

T. Ishiyama, T. Imamura, and A. Morita, Theoretical Studies of Structures and Vibrational Sum Frequency Generation Spectra at Aqueous Interfaces, Chem. Rev., 114, 8447-8470 (2014).

S. Nihonyanagi, T. Ishiyama, T-K. Lee, S. Yamaguchi, M. Bonn, A. Morita, and T. Tahara, Unified Molecular View of Air/Water Interface Based on Experimental and Theoretical chi2 Spectra of Isotopically Diluted Water Surface, J. Am. Chem. Soc., 133, 16875-16880 (2011)