教員の研究紹介
金 主賢

生体情報システム科学専攻 Major of Biological Information Systems

内因性ペプチドによる脳内活動の制御機構
Neural activity regulation system by endogenous peptides
Juhyon Kim脳・神経情報工学 Brain-Nerve Information Engineering
金 主賢 Juhyon Kim

研究の背景と目的 Background and Purpose of Study

近年の神経科学の急速な発展に伴い、脳の機能や構造に関する理解が深まると共に、新規ペプチドの発見や従来知られたペプチドの新たな作用の発見が数多く報告されている。脳機能の理解をさらに深めるため、あるいは疾病の原因特定やペプチドの生理・薬理作用を知るためには、神経活動に対するペプチドの作用並びにその作用機序を知る必要がある。 特に最近では、オレキシン(桜井らが1998年に発見、別名:ヒポクレチン)やグレリン(児島らが1999年に発見)など、発見当初は摂食促進作用あるいは成長ホルモン分泌作用を持つことで知られたペプチドが睡眠・覚醒の制御にも深く関わっていると考えられるようになり注目を集めている。オレキシン受容体及びグレリン受容体はヒスタミン、セロトニン、ドーパミン、アセチルコリンなどを含む脳内覚醒系の神経核に発現しているが、各受容体の活性化がどのような作用を持つかまだ十分に明らかにされていない。そこで、上述した脳内覚醒系神経核細胞の神経活動に対するオレキシンやグレリンなどの作用について電気生理学及び組織化学的に調べることにより、睡眠・覚醒の制御機構やその他の中枢神経系が制御する生理機能における内因性ペプチドの作用及び作用機序を解明することを目指している。


According to recent expansion of knowledge on neuroscience field, it has been reported discovery of the new endogenous peptides and the new physiological functions of well known peptides. To develop understanding of the brain function and to enrich knowledge of the physiological and pharmacological effects of the peptides, it is required to examine effects of the peptides on the neural activity. The endogenous peptides, orexin (discovered by Sakurai et al. in 1998, also known as hypocretine) and ghrelin (discovered by Kojima et al. in 1999) are known as stimulator of feeding behavior and/or growth hormone secretagogue. Recent study suggested that these peptides are also involved in sleep-wakefulness regulation system. Although receptors for orexin and ghrelin express in several brain regions including tuberomammillary nucleus, dorsal raphe nucleus, ventral tegmental area, substantia nigra pars compacta and mesopontine tegmental nucleus, known as wakefulness-promoting nuclei, effects of the peptides are remained unclear. Aim of our studies is to clarify effects of the endogenous peptides on neural activity on several nuclei relating sleep-wakefulness regulation and the other physiological functions using electrophysiological and histological methods.

本研究の領域横断性

神経細胞が発する微小な電気信号に対する内因性ペプチドの作用を調べることにより、我々の生理活動を制御する脳の構造が明らかになると考えている。また、得られた知見は疾病の原因特定や新たな治療法・治療薬開発の指針となる研究領域である。

研究内容

摂食行動や成長ホルモン促進などを調節するペプチド(オレキシン、グレリンなど)の脳内覚醒系神経核細胞に対する作用及び作用機序について調べている。マウスまたはラットから得られた脳薄切片標本を用いて、ホールセルパッチクランプ法により神経細胞の膜電位または膜電流を記録し、記録した神経細胞の組織化学的な特性を抗体染色法により同定する。ペプチドを投与したときの膜電位または膜電流の変化を観察し、その作用(興奮性or抑制性、前シナプス性or後シナプス性など)やシグナル伝達経路及びイオン機構を明らかにしている。 これまで、覚醒やREM睡眠の誘発・維持に関与するとされる脚橋被蓋核アセチルコリン含有細胞に対してオレキシンが①興奮性に作用すること、②後シナプス性に作用すること、③2つのイオン機構、すなわち非選択性陽イオンチャネルの開口及びカリウムイオンチャネルの閉口により脱分極が起こることを明らかにした(文献1)。また、グレリンが脚橋被蓋核アセチルコリン含有細胞に対してオレキシンと同様の作用(上記①、②、③)を持つことも明らかにした(文献2)。さらに、オレキシンとグレリンの作用及び作用機序が類似していることに着想を得て、単一細胞に対してオレキシン及びグレリンを投与したところ両ペプチドが単一の脚橋被蓋核アセチルコリン含有細胞を脱分極すること、また両ペプチドがフォスフォリパーゼCを介した細胞内伝達経路を共有することを明らかにした(図1、文献3)。上述した脚橋被蓋核以外の神経核においても同様な機構を持つ可能性、すなわちオレキシンやグレリンなどが互いの作用を補完・代替できる可能性が高いと考えられる。

図1. オレキシン及びグレリンは脚橋被蓋核アセチルコリン含有細胞を共に脱分極する。(上段:記録された膜電位波形、下段:記録細胞及びアセチルコリン細胞、文献3より抜粋)

参考文献

  1. kim J, Nakajima K, Oomura Y, Wayner MJ, Sasaki K. Electrophysiological effects of orexins/hypocretins on pedunculopontine tegmental neurons in rats: An in vitro study. Peptides, 2009;30:191-209.
  2. Kim J, Nakajima K, Oomura Y, Wayner MJ, Sasaki K. Electrophysiological effects of ghrelin on pedunculopontine tegmental neurons in rats: An in vitro study. Peptides, 2009;30:745-757.
  3. Kim J, Nakajima K, Oomura Y, Wayner MJ, Sasaki K. Orexin-A and ghrelin depolarize the same pedunculopontine tegmental neurons in rats: an in vitro study. Peptides. 2009;30:1328-1335.
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