教員の研究紹介
角畠 浩

生体情報システム科学専攻 Major of Biological Information Systems

社会性昆虫の交通流
Traffic Flow in Eusocial Insects
Hiroshi Kakuhata数理生物学 Mathematical Biology
角畠 浩 Hiroshi Kakuhata

研究の背景と目的 Background and Purpose of Study

今日、交通流(traffic flow)の問題は人間の社会生活において重要で、交通工学においては高速道路での渋滞の発生の予測や解消法などの理解が進んでいる。これらの交通流は人間活動に限ったことではない。単独あるいは少数のグループで行動する動物では交通流があるとはいえないであろうが、動物の群れの移動などは交通流の例であると言える。 その中でも、アリやシロアリに代表される社会性昆虫(eusocial insect)には一つのコロニーに交通流を形成するのに十分な多数の個体が存在する種類がある。これらの昆虫では十分に発達した社会構造があり、巣内部にはネットワーク構造(network structure)がある。 アリでは巣外部の行動や交通流の形成に多くの研究が行われている。しかし、巣のネットワーク構造やネットワークでの交通流の問題はまだ、十分に理解されていはいない。これらの数学モデル(mathematical model)の構築を目指す。


Today, the problem of traffic flow is important in human social life, traffic engineering has progressed in understanding and predicting the occurrence and dissolution of congestion on highways. The problems of traffic flow are not confined to human activities. In animals acting alone or in small groups their behavior could not be recognized as traffic flow, but migration of the herds of animals can be called examples of traffic flow. Among them, in the case of the eusocial insects such as ants and termites, there are species which have sufficient population to form traffic flow within a colony. These insects have well-developed social structure and network structure inside their nest. The ant behavior and formation of traffic flow outside the nest has already been done many studies. The network structure of nest and traffic flow problems in the network have not been fully understood, yet. We aim to construct mathematical models of these problems.

本研究の領域横断性

本研究においては、主に交通流を調べる交通工学、昆虫の行動を調べる生物学や動物行動学、ネットワーク構造を扱うネットワーク科学、数学モデル構築のための物理学と数学が必要となる。

研究内容

アリを用いて交通流等を調べるためには実際にアリを飼育し、その様子を観察する必要がある。アリそのものを研究するのが目的ではないがアリそのものについても知っておく必要がある。またアリの種類によってその行動が異なるので目的にあった種類を選定しなければならない。 このため、現在、クロオオアリ(学名:Camponotus japonicus)、ムネアカオオアリ(学名:Camponotus obscuripes)、ミカドオオアリ(学名:Camponotus kiusiuensis)、クロヤマアリ(学名:Formica japonica)、トビイロケアリ(学名:Lasius japonicus)、アメイロケアリ(学名:Lasius flavus)トビイロシワアリ(学名:Tetramorium tsushimae)の7種類のコロニーを複数飼育中である。以下に現在の研究課題を列挙する。

1.アリの巣のネットワーク構造の解明

土中に穴を掘って巣を作る種類のアリでは、巣の内部に通路のネットワークが形成される。アリの巣のネットワーク構造がいかなるものになるのかを調べる。これは実際にアリに巣を掘らせて観察する。野外のアリの巣では3次元的に広がっているはずではあるが、3次元の解析は困難なので、透明なアクリルパイプ2本の間の円筒形の空間に砂をつめて2次元的な状況で観察を行っている。

2.アリの巣外でのトレールの形成

アリの巣外での行動はフェロモンによって定位を行い行動していると思われがちであるが、それだけでなく太陽コンパス、ランドマークや経路積算など複数の方法を用いて行動しているし、視覚の優れたヤマアリ類の中には風景画像を記憶し、イメージマッチングを行って定位をするものもある。しかも彼らはこれらを状況に応じて切り替えて使っていることが示唆されている[1]。 よく見かけるアリの行列はフェロモンによるものであると思われ、餌場が2カ所あるときにトレールがV字型になるのかY字型になるのかを見るために予備的な実験を行った。 写真に示したのはフェロモンを用いてトレールを形成するトビイロケアリのV字型トレールである。中央下部にある巣口から先に置いた餌場(青)に直線状のトレールが形成された後に別の餌場(赤)を置いたところ、巣口より弓なりに曲がったトレールが形成された。 これにより少なくとも巣口に近いところにある餌場ではV字型のトレールが形成されうることが判った。残念ながら曲がったトレールが最適化され真っ直ぐなトレールになるのかどうかは見ることができなかった。

V-shape trail of Lasius japonicus

3.アリの巣内部での交通流

この課題がこの研究の目的であるが、現在、アクリル製の透明容器をアクリルパイプでつないだ暫定的な人口巣を構築している最中である。しかし、巣外では渋滞相が無いとされるアリではあるが[2]、狭いパイプ内で複数のアリが同時に動こうとして詰まってしまうという一種の渋滞相が観察されている。本格的な人口巣はアリの巣のネットワーク構造の解明を待たねばならない。さらにアリが巣の内部で何を用いて定位を行っているのかも不明である。

参考文献

  1. 弘中満太郎、定位─何をたよりに目指すのか、日本比較生理生化学会編「動物の生き残り術 行動とその仕組み」p.83,2009,共立出版
  2. A.Jhon, et al. ,”Trafficlike Collecttive Movement of Ants on Trails: Absence of Jammed Phase”, Phys. Rev.Lett.Vol.102,108001, (2009).
  3. 「日本産アリ類カラー画像データベース」 http://www.affrc.go.jp/etc/Ant/ant.www/index.html
タイトルとURLをコピーしました