教員の研究紹介
西条 寿夫

認知・情動脳科学専攻 Major of Cognitive and Emotional Neuroscience

大脳辺縁系における高次脳機能の神経生理学的解析
Neurophysiological investigation of higher brain functions in the limbic system
Hisao Nishijoシステム情動科学 System Emotional Science
西条 寿夫 Hisao Nishijo

研究の背景と目的 Background and Purpose of Study

大脳辺縁系(辺縁系)Limbic system は、脳の内側部に位置し、認知 recognition、情動発現 emotional expression、および記憶形成 Memory formation のすべての過程に関与している。とくに側頭葉内側部 Medial temporal lobe に存在する扁桃体 Amygdala および海馬体 Hippocampus は、すべての大脳皮質感覚連合野 Associative cortex からの情報が収束している領域であり、大脳皮質由来の高次処理情報(認知情報)に基づいて情動発現ならびに記憶形成に重要な役割を果たしている。 すなわち、扁桃体および海馬体は、それぞれ情動および記憶システムの key structure である。また、霊長類は、他者の感情や考えを読み取る社会的認知機能 social cognition が発達しており、扁桃体が関与していることが示唆されている。 われわれは、辺縁系におけるこれら情動発現、社会的認知および記憶形成機能の神経機構を明らかにするため、行動している動物の扁桃体および海馬体ニューロンの活動を解析している。また、ヒトでは非侵襲的脳機能計測 non-invasive brain functional mapping により同様の機構を解析している。


The limbic system, located in the medial wall of the cerebrum, is involved in recognition, emotion, and memory formation. Especially, the amygdala and hippocampal formation, which lie under the medial temporal cortices, receive the sensory information of all modalities from the sensory association cortices, and integrate this higher order information into emotion and memory. Thus, the amygdala and hippocampal formation are essential in the higher order brain functions as key structures for emotion and memory systems in the brain, respectively. Furthermore, social cognition by which we can infer other individuals’ emotion and reasoning is highly developed in primates, and related to the amygdala. We have been investigating neural mechanisms of emotion, social cognition and memory in the limbic system by analyzing neuronal activity in behaving animals. We also analyze human brain functions using non-invasive brain functional mapping techniques.

本研究の領域横断性

脳スライス標本を用いた薬物効果、動物の行動および生理機能に及ぼす薬物効果、ならびにヒトの脳機能(脳血行動態測定、脳波)および生理機能に及ぼす感覚刺激(匂い、味覚、体性感覚)や疲労の効果等の解析が可能である。

研究内容

1)社会的認知機能の神経生理学的解析

われわれは、霊長類の扁桃体における社会的認知機能を明らかにするため、サル扁桃体ニューロンのヒトの顔写真に対する応答性を解析している。行動学的研究により、サルは、ヒトの顔写真や表情にサルの写真と同様に反応することが報告されている。図1には、二人の人物(モデルAおよびB)の正面または斜め方向の顔画像を呈示して、顔画像の視線方向を識別しているサル扁桃体からニューロン活動を記録した結果を示してある。

図1

このニューロンは、正面を向いた顔で、視線が左右および正面を向いている顔画像にはあまり応答していないが(Ac-e, Ah-j)、頭部が向かって左方向を向いている顔画像に対して強く応答している(Aa,b, Af,g)。 一方、単純な図形には応答していない(Ak,l)。Bには、これらの画像刺激に対する平均応答強度を示してあり、統計学的解析から、このニューロンは顔方向および視線方向に識別的に応答することが明らかになっている。 同様にその他のニューロンを解析した結果、扁桃体ニューロンの多くは、視線方向と顔方向に識別的に応答し、さらに視線方向に対する応答が顔方向に影響されることが明らかになった。本研究結果は、ヒトの心理学的研究結果と一致し、視線方向と顔方向の情報の統合が、扁桃体を含む視覚情報処理のかなり早期のレベルで行われていることを示唆するものである。

2)記憶機能の神経生理学的解析

われわれは、仮想空間呈示装置により広域空間で視覚手掛かりを呈示して、海馬体ニューロンの応答性を解析し、空間認知・記憶の基盤となる場所細胞の場所フィールド(ニューロン活動が上昇する領域)が仮想空間に存在するかどうか、解析している。 この研究では、サルをモンキーチェアーに座らせ、サルの前方に設置した視覚刺激呈示用スクリーンに、3次元仮想空間(VR空間)を呈示した。VR空間移動課題では、直径20mの円形オープンフィールドを設置し、円形オープンフィールドの外縁には、空間手掛かり刺激である家、木、旗、ビル、岩、ポスターなどのオブジェクトを配置した。 一方、円形オープンフィールド内には5つ(北、東、南、西、中央)の報酬領域(直径0.6m)を設置した。サルは、ジョイスティックを操作し、このVR空間内を自由に移動し、そのうち中央を含む3つの報酬領域を往復移動により、サルが各報酬領域に侵入した時点でブザー音が鳴り、報酬(ジュース)を獲得できるようにした。 以上の課題に対する、各海馬体ニューロンの空間応答性を解析した結果、約40%のニューロンが課題中に何らかの応答を示した。 図2は、仮想空間の特定の場所で活動が上昇したニューロン、いわゆる場所ニューロンを示してある。このニューロンは、サルは各報酬間を移動しているが、サルが北の報酬領域の近傍を移動したときにニューロン活動が上昇している(A)。

図2

さらに、各報酬領域に侵入した時点を時間軸のゼロとする加算ヒストグラムを作成して詳細に検討すると(B)、北方の報酬領域において、それに侵入する前はサルは北方向に向けて移動し、報酬領域に侵入して報酬獲得後は南方向に向けて移動しているが、いずれの場合も北方の報酬領域近傍でニューロン活動が上昇している。また、中央部報酬領域において、南方から北方向に向けて進行しているときにもニューロン活動が上昇している。 以上から、このニューロンは、移動方向(進行方向に見える景色)に関係なく、北方の報酬領域近傍で活動が上昇したことから、進行方向に見える特定の視覚刺激ではなく、特定の場所(北方の報酬領域近傍)を符号化している場所ニューロンであると考えられる。 これらサル海馬体ニューロンの特徴は、ヒトのエピソード記憶(思い出の記憶:何処で、何をしたか)の神経生理学的な基盤となると考えられる。

参考文献

  1. Nishijo, H., Ono, T. and Nishino, H. Topographic distribution of modality-specific amygdalar neurons in alert monkey. J Neurosci 8: 3556-3569, 1988.
  2. Komura Y, Tamura R, Uwano T, Nishijo H, Ono T. Auditory thalamus integrates visual inputs into behavioral gains. Nature Neuroscience 8: 1203 - 1209, 2005.
  3. Le QV, Isbell LA, Matsumoto J, Nguyen MN, Hori E, Maior RS, Tomaz C, Tran AH, Ono T, Nishijo H. Pulvinar neurons reveal neurobiological evidence of past selection for rapid detection of snakes. Proc Natl Acad Sci USA 110: 19000–19005, 2013.
  4. Nishijo M, Tai PH, Ahn TNT, Nghi TN, Nakagawa H, Luong HV, Anh TH, Morikawa Y, Manh HD, Kido T, Nguyen MN, Nguyen HM, Nishijo H. 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin in breast milk increases autistic traits of 3-year-old children in Vietnam. Mol. Psychiatry 19: 1220–1226, 2014.
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