教員の研究紹介
磯部 正治

生体情報システム科学専攻 Major of Biological Information Systems

工学的技術を用いた疾患の分子遺伝学的研究
Molecular Genetic Studies on Diseases using Engineering Technology
Masaharu Isobe生命情報工学 Biological Information Engineering
磯部 正治 Masaharu Isobe

研究の背景と目的 Background and Purpose of Study

われわれは、2種類のゲノム解析手法を用いて、疾患に関連する遺伝子の探索を行っている。その一つは、染色体異常を利用したアプローチである。がんや種々の遺伝病では特定の染色体領域における異常が、疾患関連遺伝子の破壊もしくは脱制御化等を引き起こし、発症に結びつくことが広く知られている。われわれはこの染色体構造異常が存在する領域を迅速に解析し、その領域から疾患関連遺伝子を同定する方法論を確立した。この方法論を適用し、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)の発症に関連する遺伝子を同定した。 また、ヒトの罹患家系を用いた連鎖解析と異なり、マウスを用いた連鎖解析では任意の組み合わせの交配が可能であり、複雑な多因子遺伝形式を示す疾患の解析に極めて有効である。現在、遺伝的に早期老化にともなう記憶学習障害を示す SAMP8 と呼ばれるモデルマウスの連鎖解析を行い、近年急激に進む高齢化社会に於いて大きな社会問題となりつつある、老化に伴って発症する認知症の原因遺伝子の探索に取り組んでいる。 さらに最近、工学的技術と分子遺伝学的技術を駆使することにより、世界最速の抗原特異的抗体遺伝子の大規模単離法の開発に成功した。本技術は近年世界的に注目されている抗体医薬の開発に大きく貢献すると考えられる。


We have taken two different approaches on genome analysis for searching the disease related genes. One approach is the method by taking advantage of recurrent chromosome abnormalities. It is widely known that such chromosome abnormalities often cause deregulation or disruption of disease related gene. The identification of disease related gene was carried out by analyzing the regions of chromosome abnormalities such as the breakpoints of chromosome translocations followed by characterization of the gene affected by these translocations. Using this approach, we have succeeded in identification of genes involved in the onset of adult T-cell leukemia/ lymphoma (ATLL). We have also applied a second approach of conventional linkage analysis to find out genes involved in senile dementia. There is a strain of mouse so called Senescence-Accelerated Mouse P8(SAMP8)exhibiting age-related leaning and memory dysfunction (LMD). By using quantitative trait linkage (QTL) analysis, we found at least three different loci were involved in this disease. We are now carrying out exhaustive genome analysis of these regions as well as functional analysis of each candidate gene. We are hoping to clarify genes related to senile dementia shortly. More recently, we have succeeded in development of the world fastest system for the isolation of antigen-specific antibody genes by utilizing advanced molecular genetic methods in combination with engineering technologies. This system will significantly accelerate the development of Antibody Medicines.

本研究の領域横断性

われわれの研究室では、分子遺伝学的研究手法に工学的手法を組み合わせることで、疾患原因の解明に取り組んできたが、その応用例として最近、世界最速の抗体遺伝子単離システムの開発に成功した。

研究内容

染色体異常に基づく成人T細胞白血病関連遺伝子の探索

ATLL では、14番染色体長腕 q32 領域における染色体異常が約10%前後の頻度で観察される。この染色体異常集積領域のゲノム解析を進め、ATLL 発症との関連が強く示唆される遺伝子を同定し、この遺伝子の機能解析を進めると共に、同様の手法で他の染色体異常集積領域の解析を進め、細胞内遺伝子変化による ATLL の発症機構解明に迫りつつある。

記憶学習障害関連遺伝子の探索と機能解析

われわれは、老化に伴う記憶学習障害の原因遺伝子の探索を行うため、武田らによって樹立された促進老化モデルマウス Senescence-Accelerated Mouse(SAM)の1系統である(SAMP8)に着目し、量的形質を指標とする連鎖解析 Quantitative trait linkage(QTL)法を用いて、記憶学習障害を引き起こす原因遺伝子の探索を試みた。 老化に伴う SAMP8 の早期記憶学習障害に関連する遺伝子の染色体座位を明らかにするため、日本産野生マウス由来 JF1 系統を正常コントロールマウスとして用いた。 ステップスルー受動的回避反応法を記憶学習障害の指標として用いて解析した結果、少なくとも3カ所の遺伝子座と有意な連鎖を見いだした。 現在、これらの染色体領域に存在する遺伝子の構造と発現様式を網羅的に解析し、原因遺伝子の特定と機能解析を進めている。これまで老化にともなう神経機能障害に関連する標的分子はほとんど明らかにされていないことから、今後の成果が期待される。

世界最速の抗原特異的抗体遺伝子単離法の開発

抗体スクリーニングまでに数ヶ月もの時間を要するハイブリドーマ法に代わり、われわれは遺伝子組換え技術を用いて必要な抗体をわずか5日間で単離同定するためのシステム開発に成功した。具体的には、1個1個のB細胞からそれぞれの抗体遺伝子を確実に単離し、培養細胞で発現させた後、培養上清に分泌された抗体の結合特性をスクリーニングすることで、有用な抗体遺伝子を迅速に単離することが可能となった。 その一つの基盤技術として、わずか一個の抗体産生細胞から抗体 cDNA を確実に合成するための懸垂液滴アレイ式磁気ビーズ反応法(Magnetic-beads reaction through arrayed hanging droplets, MAGrahd 法)を開発した。さらにこの MAGrahd 法を自動化するため、ロボットアームと酵素反応に必要な恒温装置を内蔵した抗体 cDNA 自動合成装置の試作を行った。 また精製、制限酵素による切断あるいはリガーゼによる結合などの煩雑な操作を一切行うこと無しに、単一細胞に由来する抗体やT細胞受容体 cDNA 断片を、正確に発現ベクターへ組み込むため「標的配列選択的相同組換え法」という独自技術を開発した。 これらの技術を組み合わせることで、免疫された動物からわずか5日で目的の抗原特異的な抗体をコードする遺伝子が単離できるようになった。われわれの技術に基づく新しい抗体単離システムは、抗体医薬候補探索の飛躍的迅速化と効率化に貢献すると期待される。

参考文献

  1. Rapid isolation of viral integration site reveals frequent integration of HTLV-1 into expressed loci. T. Ozawa, , T. Itoyama, N. Sadamori, Y. Yamada, T. Hata, M. Tomonaga, and M. Isobe : J. Hum. Genet. 49: 154-165 (2004)
  2. Genetic analysis of learning and memory deficits in senescence-accelerated mouse (SAM). K. Tomobe, M. Isobe, Y. Okuma, K. Kitamura, Y. Oketani, Y. Nomura : Physiol. Behav. 84: 505-510 (2005)
  3. Minimum length of homology arms required for effective Red/ET recombination. R. Fujimoto, T. Osakabe, M. Saito, N. Kurosawa, and M. Isobe: Biosci. Biotechnol. Biochem. 73 (12) 2783-2786 (2009)
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